“ジェットコースターは良いけどお化け屋敷には入りたくない派”の主張を聴いてくれ 

“ジェットコースターは良いけどお化け屋敷には入りたくない派”の主張を聴いてくれ 

2020年8月26日

私はお化け屋敷に入りたくない。

心臓に悪いからである。

考えたことはないだろうか?
BGMや装飾で恐怖を演出し、
暗く、狭い通路で、
次に何が出てくるかも分からない状況で、
曲がり角や暗がりから
いきなり幽霊のキャストが飛び掛かってくるのである。

ビックリするに決まっているではないか。

雰囲気が怖いのではない。
驚かせ方が心臓に悪いのだ。

こう言うと、お化け屋敷擁護派は大抵、
「ジェットコースターのドキドキと同じで楽しいじゃん」
とか言ってくるのだ。

たしかに、私はジェットコースターは好きだし、
ドキドキするという点では、
お化け屋敷もジェットコースターも同じである。

フランスの批評家ロジェ・カイヨワは、
“遊び”を4つの観点から分析したが、
そのひとつがイリンクス(Ilinx)=眩暈(めまい)である。

知覚の安定性の破壊、
「一種の痙攣、失神状態、あるいは茫然自失」(Caillois 1958=1990:60)
に達するような知覚の混乱状態が起こる遊びを、
カイヨワはイリンクスと名付けた。


お化け屋敷もジェットコースターも
知覚的刺激によって意識が一定のパニック状態になるので、
カイヨワの分類にしたがえば、
たしかにお化け屋敷のビックリも、
「ジェットコースターのドキドキと同じ」イリンクスなのである。

でも違う。
違うんだよなぁ。

まず、大抵のジェットコースターは、
先の展開が読めている。
なぜなら線路が見えるからである。
絶叫マシーンも同様で、どれくらい落ちるのかは目視できる。
つまり、いきなりビックリはしないのである。

う言うと、
「じゃあスペースマウンテンやタワテラはどないやねん」

と言われそうである。

たしかに、暗闇のアトラクションであるスペースマウンテンやタワーオブテラーでは、
いつ曲がるのか、どれくらい落ちるのかというのを
現場で視認することは難しい。
アトラクションを熟知した猛者でない限り、先の展開の予想は困難である。

だが、スペースマウンテンもタワーオブテラーも、
いきなりビックリするわけではない。

スペースマウンテンは常に高速で上下左右に滑走するし、
タワーオブテラーも始まれば基本的には上下動が続く。
つまり、常に動いているわけであり
いきなりビクッ!となるわけではない。
スペースマウンテンやタワーオブテラーの楽しさのメインは、
他のジェットコースターや絶叫マシーンと同様に
日常生活では経験できない高さやスピードにより生じる興奮なのであり、
いきなりビックリ要素は多少あるとしても、
あくまでその興奮を増大させるための仕掛けに過ぎない。
スペースマウンテンやタワーオブテラーのいきなりビックリ要素は、
所詮は噛ませ犬程度の役割なのである。

だが、仮にスペースマウンテンが毎秒のようにグニャグニャ曲がるものではなく、
ひたすら真っすぐに滑走し続け、
1分に1度くらい急に大きく曲がるアトラクションなら話は変わってくる。

真っ暗な中でジェットコースターが、

スーーーーーーーーー
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スーーーーーーーーー
スーーーーーーーーー

ガコンッ!!

スーーーーーーーーー
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スーーーーーーーーー
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スーーーーーーーーー
スーーーーーーーーー
スーーーーーーーーー
スーーーーーーーーー

ガコンッ!!

なんて挙動をしたら、
私は今までのようには楽しめないだろう。

いつ曲がる?いつ曲がる?
あれ?まだ?まだ?
そろそろかな?来るぞ…あれ来ない…
さすがn

ガコンッ!!

うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ
ビックリしたー…

となるのである。
まさに“いきなりビックリ”である。

私はこの“いきなりビックリ”というイリンクスが心臓に悪いと言っているのだ。

“いきなりビックリ”というイリンクスは、
「この先ビックリするだろうけど
いつビックリするかは分からない、
いつ来るのかな怖いな怖いな」
という“Ready to ビックリフェーズ”と、
実際に何かが起きてビックリする“ビックリフェーズ”
という2段階で構成されている。

つまり、ビックリフェーズになるときに“静”から“動”の状態になるのであり、
この“静”から“動”の落差が、
いきなりビックリの原因なのである。

ビクゥッ!!となるに決まっているではないか。

背中を指圧で段々強く押されて生じる痛みと、
いきなり背中をパンチされる痛みが違うように、
ジェットコースターのドキドキと
お化け屋敷のいきなりビックリは違うのであり、
このいきなりビックリが心臓に悪いから、
私はお化け屋敷に入りたくないのである。

経験上、ここまで言えば大抵のお化け屋敷擁護派は引き下がってくれる。
しかし、一部の急進的なお化け屋敷擁護派はこう言ってくるのだ。

「え?そもそもお化け屋敷ってそんなにビックリしなくない?」

高校生の時に、
このようにまるで私がおかしいかのように言ってきたヤツがいた。

当時、私はポジショントークとして
「お化け屋敷でビックリしないヤツは
危険察知能力が鈍くなっているから
むしろお前の方がおかしいと思う」

という尖った回答をしていた。

だが、今となっては別のことを思う。

ビックリしないなら、それはそれでお化け屋敷つまらなくないか?
お前も“お化け屋敷には入りたくない派”だろ、と。

参考文献
ロジェ・カイヨワ、多田道太郎、塚崎幹夫訳『遊びと人間』講談社学術文庫、1990年。(Roger Caillois, Les Jeux et les Hommes[Le masque et le vertige], édition revue etaugmentée. Gallimard,1967(original 1958))