「1000円お買い上げごとにシール1枚」って書いてあるじゃん。

「1000円お買い上げごとにシール1枚」って書いてあるじゃん。

私の家の近くのスーパーで、
ムーミン75周年キャンペンーンがおこなわれている。

お買い上げ1000円ごとに
ムーミンシールが1枚手に入る。
シールを12枚集めると、
ムーミンやスナフキンのお皿が約59%OFFで購入できるらしいのだ。
(もれなく貰えるほど甘くはない。)

最初、私はこのキャンペーンを知らなかったが、
ある日買い物に行った際に2枚、
次の買い物の際に3枚のムーミンシールをレジで受け取り、

「なるほど、そういうことなら」

ということで、残り7枚のシールを集めることにした。

しかし、である。

次に買い物に行ったとき、
1500円ほどの食品をカゴに入れレジに並び、
お会計を済ませたのにもかかわらず、
店員さんからムーミンシールを貰えなかったのだ。

なぜだ…?
1000円以上買ったのに…
キャンペーンが終わったのか?
いや、たしか11月までのはずだ。
それに、レジには堂々とムーミンシールのストックが
大量に置いてあるのが見えるではないか!!
なぜだ!!店員さんよ!!
私がムーミンに何をしたと言うのだ!!

こういうときは、

「あのすいません、ムーミンシールっていただけますか?」

などと訊くのが最適解であろう。
店員さんは渡すのを忘れているだけかもしれないのだから。

だが、こういうとき私は訊けないのだ。

理由は3つある。

①ムーミンシールは、
言ってしまえば“オマケ”である。
“オマケ”を貰えなかった程度で
夕方の混雑したレジの流れを止めることは、
どうにもアンチマナーに思えてしまうのだ。

②私に何か落ち度があるのではないかと思ってしまうのだ。
私が手続きを踏めていないから
ムーミンシールを授与されないのであって、
「ムーミンシールを授与されたくば
キャンペーンポスター読んどけやルール書いてあんべ」

と店員さんに思われそうで訊けないのだ。

③仮に私が訊いたとして、店員さんに
「え、なになに、この人?
そんなにムーミンシールほしいの?」

と思われたくないのだ。
私が少年ならともかく、いい歳した大人である。
しかも、高校では野球部で4番を打っていた程度には体格がいい。
そんなガタイのいい人間が
「ムーミンシールください」
なんて言った折に、
「え?ムーミンシールほしいの?…アナタが?(笑)」
とか、
「なんか体型がムーミンの人がムーミンのお皿欲しがってるんですケド(笑)(笑)」
とか、心の中で笑われるのではないかと
恐れおののいてしまうのだ。

訊けば解決するのは重々承知しているが、
以上のような私の精神衛生上の事情で、
結局その日はムーミンシールをもらうことはできなかった。

だが、私もタダで転ぶわけにはいかない。
“なぜムーミンシールがもらえなかったのか”、
家で反省会をおこなうことにした。独りで。
結果として、

①現金決済をしないともらえないのでないか?
(その日はクレジットカード決済)

②エコバッグで買い物をしないともらえないのでないか?
(その日は持参し忘れたので有料レジ袋を購入)

③「ムーミンシールください」って言わないともらえないのではないか?
(コロナ禍とあって接触をなるべく避けるため、
希望者のみに配布という方針に切り替わった可能性)

この3つが挙げられた。
③はともかく、①と②は
そういうルールがあるならどこかに書いてあるはずだが、
その日確認した限りそういう但し書きはなかったし、
そのスーパーのホームページにも書いてない。
(「いやだから店員に訊けよ」と言ってはいけない。
私は店員さんに何も訊かずにシールを貰いたいのだ!)

若干途方に暮れたその時、いいことを思いついた。

集めたムーミンシールは、
キャンペーンの用紙に貼り付けている。
この用紙を見せつけながら会計をすればいいのだ!

これを手に持ってお会計をすれば、
よほど余裕がない店員さんでない限り、
気が付いてムーミンシールをくれるはずである。
仮に私の買い物に何か落ち度があるなら、
きっとなにかアドバイスをくれるはずだ。

そうして、次の買い物に行ったとき、
私はこれみよがしに
赤いキャンペーン用紙を見せつけ、
トレーに現金を置くときにも、
現金を持っている方の手に用紙を持ち、
現金を置くときには用紙でトレーが見えないような具合にした。

すると、レシートのお返しの際、
「ムーミンのシール置いときますね~」
と店員さんがシールを2枚くれたのだ。

ついに私は店員さんに何も訊かず、
ムーミンシールを手に入れたのである。

ちなみに、その日他の人の会計を見てわかったのだが、
決済方法もレジ袋も関係なく、
ただ店員さんは求められない限り、
ムーミンシールを渡さないらしいのだ。
つまり、反省会の③が正しかったことになる。

だが、わざわざ訊く必要などない。
これからはこのキャンペーン用紙を持参し、
頑張って7枚まで集めた証拠を見せれば、
きっと店員さんはムーミンシールをくれるはずだ。
日本の“察しなければいけない文化”はあまり好きではないが、
ここは思う存分利用させてもらおう。

と、思っていた次の買い物で、
私は用紙を忘れたことに
こともあろうか会計中に気づいてしまった。

『水戸黄門』の格さんが
印籠を忘れるレベルのミスである。

だがしかし、
私に買い物手続き上の落ち度がないのは確認済である。
加えて、今は次を待つお客さんも並んでいない。
「すいません、ムーミンのシールをください」
と言えばいいだけである。
だが、そう思っても、やはり
「え?ムーミンシールほしいの?…いい歳したいいガタイのアナタが?(笑)」
と思われるかもしれない恐怖に打ち勝てそうもなかったので、
奥の手を使うことにした。

そうだ、私はパパだ。
妻に買い物を頼まれ、私はレジに並んでいる。
そして私には、4歳になる娘がいる。
「パパ、○○ね、ムーミンさんのお皿がほしいの!」
家ではムーミンシールが12枚になることを心待ちにしている娘がいるのだ。
だから、その娘のために、
私は店員さんからムーミンシールを貰わなければならない。
これは私の義務であり使命だ。

という架空の設定を、
レジでお財布を開けながら、
私は一瞬で作り上げた。


私はパパ、私はパパ、私はパパ。

不思議と勇気が湧いてきた。
パパとなっちゃぁ、店員さんも何も思うまい。

「すいません、ムーミンのシールいただけますか?」

私は平静を装って訊いた。

「え、あー、シールいります?」
店員さんは忙しそうに答えた。

あのさぁ…
ムーミンシールいただけますかって言ってるんだからさぁ…
シールいるに決まってるじゃん…
「え、いんの?」
みたいに訊き返さなくていいじゃん…
ここまで辿り着くのに何文字使ってると思ってんのよ…

シールは1枚手に入れたが、
最も恐れていた回答を店員から食らってしまった。

キャンペーン用紙のシール貼付欄は、
あと4枠残っている。